さよならニッポン
若者に半ば強制的に試練を与え、それを乗り越えていく様子を中継するTV番組が好評を博している昨今です。でも、試練を試練とも思わない、他人からは「自分から苦労してバカじゃないの」といわれてしまうようなことをしている人は少なくないと思います。
「デリーからロンドンまで走るという幻のバス」に乗るために「私」は旅支度をしたのでした。別にきっちりとした計画はなく、漠然と香港からデリー、そしてロンドンまでバスを乗り継いでいくというものです。当時「私」には仕事もあり、べつだん不自由も感じていなかったというのに、なんでまたそんなことをしたのか…きっと、わからなかったからだと思います。ネタバレな明日よりも、本当にどうなるかわからない明日のほうがよりよいものだと感じたのかもしれません。
旅先でいったい何に出会うか予想がつきませんし、いつトラブルがおこるかわかりません。でも、今まで食べたことのない珍味に舌鼓をうち、ギャンブルに熱くなるもよし、何もせずただ通りを歩き回るだけでもよし。色々な人と交流し、時には一人で考え込む。私はそんな旅の記録から「旅立つことで旅の目的は達成されているのでは」と感じました。ロンドンに到着する前に「私」はすでに「到着」してしまったのではないでしょうか。タイトルの「深夜特急」に含まれているもうひとつの意味(冒頭で述べられています)が、それを暗示しているように思われます。
なぜ旅をするか、旅をするとどうなるかは人によって様々な考え方があるかと思います。この本は単なる旅行記と呼んでもいいし、旅のガイドブックになるかもしれません。要は各々のやり方で「さよならニッポン」すればいいのではないでしょうか。
(沢木耕太郎、新潮文庫)
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