電脳空間と仮想現実、サイバーパンクの幕開け
20世紀末、次世紀の立役者としてコンピュータ及びそのネットワークが注目され始めた1980年代にこの物語は発表されました。全世界を覆うネットワーク、コンピュータに人間の感覚を直接入力するサイバーデッキ、実用化された人工知能、兵器としてのコンピュータウィルス…などなど、近未来のスパイス満載のこの物語は「サイバーパンク」なる作風を最初に確立しました。人間の肉体と感覚が分離できた時、「知能」の定義や「生命」の境界線が曖昧になっていき、ハイテクとコピー文化のもたらす混沌とした世界で生き生きとしているのは、最先端(エッジ)すれすれのきな臭い仕事を請け負うハッカーたちなのです。
およそ時代遅れと言われかねないピカレスク(悪漢活劇)の手法がかえって登場人物の個性を引き立てています。主人公をはじめ、誰もがすねに傷ある、たたけばホコリの出そうな者ばかり。アナーキーな彼らが使う粋なスラングも、今は亡き黒丸尚氏のポップな翻訳でカッコ良く響きます。また、バーチャル・リアリティ技術が娯楽として普及していたり、ドラッグで感覚を「拡張」したりと、身体に悪そうな小道具も雰囲気を盛り上げます。
お話はなんと日本から始まります。チバのニンセイ(いったいどこなんでしょ。アキハバラじゃないの?)で、廃人同様にうつろな毎日を過ごす元ハッカーの主人公に、依頼が舞い込むところから始まります。前の仕事で強がりすぎて、電脳空間にアクセスする能力を取り上げられてしまった彼に、また仕事ができるようにしてやるというのです。もちろんその仕事には危険な匂いがします。でも主人公はまた電脳空間にアクセスできるようになるならと、引き受けるのですが…
結構この本は読みこなすのが難しいです。斜め読みでダーティな近未来の感覚を味わうだけでもいいかもしれません。「サイバーパンク」と銘打つ作品のほとんどに影響を与えた作品ですから、この手の作品を好きなら、ぜひ触れてほしい本です。ちなみに映画「JM」も同じギブスン氏の作品ですから、「JM」を見た人なら短編集「クローム襲撃(同じくハヤカワ文庫)」収録の「記憶屋ジョニィ」から入るのもいいでしょう。私個人としては士郎正宗氏の「攻殻機動隊」や映画「マトリックス」あたりを入門編としてお勧めします。
(ウィリアム・ギブスン, ハヤカワSF文庫)
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