2024/02/17

ガープの世界

 日常性という名の暴力

 ここには、一人の男とその男による世界が描かれています。それはまるでおとぎ話のように意外で、おとぎ話のように明るく、おとぎ話のように残酷なのです。母親は女性運動家で名を馳せ、彼も作家として有名になるのですが、彼にとっては「日常」こそがとても暴力的というのです。いつどこで「日常」から「非日常」に突き落とされるか判らないからです。

 そのひとつが交通事故です。日本でも年間一万人あまり(ただし事故後24時間内、それ以外のケースは統計外だそうです)が死亡しているというのですから、ごく普通の生活を送っている人が奈落に突き落とされる可能性が非常に高いのです。彼はスピードを出しすぎる車が通る度に家を飛び出してはドライバーを注意しなければ気が済まないのです。そんな彼も交通事故に出くわし…非常に衝撃を受けるのです。

 そしてもうひとつがレイプです。とある国では今でも8分間にひとりの割合で女性がレイプされているというのですが、この物語では「レイプ」という言葉がひんぱんに出てきます。彼もまたレイプ(のような原因)で生を受けたし、レイプされた女性が物語に関わってきます。女性の人間性を無視しずたずたにしてしまうレイプは彼にとって非常に我慢ならないものだし、レイプされた女性に反応し騒ぎ立てる人々を猛烈に批判するのです。

 この本を読むと、「日常性」から「非日常性」に突き落とされた人間がいかに無力か知ることが出来ます。私がコンビニでバイトをしている時、ある日頭から血を流した女性が店に入ってきたのです。ヒステリックに訳の分からないことを叫ぶ彼女をどう扱ったものか私も大混乱してしまったのでした。時間の感覚や前後の記憶がやふやになり、ふたつ以上の物事が処理できなくなってしまったのです。まあ…その時はどうにか収拾がつきましたが、その時のことを思い出す度に「日常性」の片隅に待ちかまえる危険な罠を感じずにはいられないのです。

(ジョン・アーヴィング,新潮文庫)

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