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2025/08/27

無料で読めるゲームブック

国会国立図書館デジタルコレクションに収録されているゲームブックを調べてみました。
電子化されており、利用者登録(無料)すればWeb閲覧できます。

[社会思想社]

火吹山の魔法使い

バルサスの要塞

運命の森

さまよえる宇宙船

盗賊都市

死のワナの地下迷宮

トカゲ王の島

サソリ沼の迷路

雪の魔女の洞窟

アルテウスの復讐 : ギリシャ神話アドベンチャーゲーム
※電子化は1のみ


[ソーサリー!]

魔法使いの丘

城砦都市カーレ

七匹の大蛇

王たちの冠 ※2026/4/27に館内限定公開に変更されました


[創元推理文庫]

バック・トゥ・ザ・フューチャー

ゼビウス

吸血鬼の洞窟

シャドー砦の魔王

炎の神殿

巨大コンピュータの謎 : デュマレスト・ゲームブック


[光文社文庫]

大遺産を探せ! : 一緒にアクシア

F-4Jファントムラインバッカー作戦

日本縦断キャノンボール火の玉レース

妖魔館の謎

戦闘宇宙艇SRV-4Bシャングリラ作戦



[祥伝社スーパー脱出ゲーム・ノベル]

悪夢の妖怪村

青函トンネル大迷宮

悪夢のマンダラ郷


[JICC出版局]

イーグルジャンクション


※追記

ドロシー!さんのnoteもぜひ参照してください。
自分も知らなかったゲームブックも紹介されています。

国会図書館デジタルコレクションでゲームブックを読もう


2025/02/19

フィオナの海

不思議なアザラシたち

 スコットランドの北部を舞台としたファンタジーです。
ゆったりとしたテンポで話が進むので、頭の中で想像の写真集を開いて、もの寂しい海沿いの村の風景を思い浮かべるように読み進むといいでしょう。
 主人公は女の子です。家族の都合でしばらく離れていた故郷の村に帰ってきたところから物語は始まります。村を離れた時に幼い弟が行方不明になってしまった悲しい思い出があるけれども、彼女は弟が生きていると信じています。村に住む祖父母と暮らしながらも、彼女はかつて住んでいた家がある島が懐かしくてたまりません。なんとかして、その島へ向かおうとします…
 キーポイントとなるのはアザラシです。人懐っこい感じのアザラシたちの描写がこの物語の雰囲気を盛り上げてくれます。だから、本を読む前にアザラシの映像や写真などを眺めておくといいかもしれませんね。
 あるいは「アザラシ幼稚園」のライブ映像を観るのもいいですね。これは、2024年の夏にふとしたことからオランダのアザラシの保護施設が話題になったのです。保護プールの24時間ライブ映像がまるで幼稚園のように見えたことから「アザラシ幼稚園」と呼ばれ、かなりのアクセスを記録しています。
読んだ後にアザラシたちを観る、という手もありますね。
こちらで観ることができます。

(ロザリー・K・フライ、集英社)
Amazonで購入できます。

2024/08/26

ライ麦畑でつかまえて

そういうつもりじゃなかったんだ

 知らぬ間に人を傷つけてしまったり、心と裏腹に違うことを言ってしまう。
誰にでもあるかと思います。強がっているわけでもなく、他人が怖いわけでもないのに。

 主人公は多感な年ごろで、立派な家のお坊ちゃんで、いい学校にも通っている。
成績はまあまあ、友人も多少はいる。助けてくれる知人もいる。でも、でも…
何かが、彼を動かしているような。それとも、彼が何かに抗っているのか。

 この本を紹介されたのは中学3年生の時です。英語の先生が、最後の授業の時に「ちょっと早いかもしれないけど」と前置きしてこの本について語っていました。その時は一瞬「読んでみようかな」と思いましたが、なんとなく後回しにしてしまったのです。きっと先生は、多感な10代の頃に読んで欲しかったのでしょうけど。

 10代の自分はそんなにひねくれた性格でいるつもりはなかったですが、確かに気持ちとは違って別のことをしようとする衝動に駆られていました。高圧的な大人に反抗し、わざと意にそぐわない行動をとって大人たちを怒らせていました。自分の中にある自分だけの正義感があって、それに従うことしかできない、そんな性格でした。

 そして20代、この本を手に取りましたが読みはしませんでした。少し読んでみたのですが、なんだか主人公に共感できるところが少なかったのかもしれません。今考えてみたら、もうその時には読む時期を逸してしまっていたのかもしれません。でも、自分の中にある例の自分だけの正義感がもたらす衝動は、しばしば人間関係にヒビを入れることがありました。
…そういうつもりじゃなかったんだ、と。

 本棚に置きっぱなしになっていたこの本をやっと読んだのは50代になってからです。
あらためて主人公の気持ちや衝動や行動に触れながらも、自分の中にある「自分だけの正義感」の存在を知り、そしてこの本を読むのが遅かったと痛感しました。

でも、読んでいたとしてもあの頃の自分なら「なんだ、この本」と言いそうですが。

(J・D・サリンジャー、白水社)
Amazonで買えます。

2024/05/11

国立国会図書館がすごい

かねてから、国立国会図書館の蔵書数は知っていた。
しかし、デジタルライブラリーのことは知らなかった。

https://dl.ndl.go.jp/

絶版で入手難となっているものなどを電子化して、ネット経由で読めるようにしているのだ。
ユーザ登録していなくても、検索はできるようなので試しに検索すると…

あるあるあるある、あの日あの時読めなかった本、プレミア価格過ぎて入手をあきらめた本、失くしてしまってもう読めない本、子どもの時に読みふけった思い出の本…

なんたる僥倖!!

早速利用者登録を行い、先日ようやく本登録の知らせが届いた。
いちいちカード発行して送ってくるとかではないけど、全国中から登録が殺到しているのだろう。

今でも「この本はあるのかな」と、書名、著者、出版社などを手掛かりに検索をしている。
楽しみで仕方がない。

2024/03/12

悪の論理

悪とならぬ様、悪に向き合え

 冷戦も佳境に入った1980年代に書かれたこの本を今読むと、時代遅れの感がしないでもないのですが「当時の状況を顧みるに、こういう分析もあったのだな」とだけ受けとめるよう心がけ、本の内容に囚われないように気をつけました。

 国家戦略にはその国自身の「地勢」が大きな影響を及ぼしている、として理論を展開する地政学は20世紀の戦争やその後の混乱を引き起こした元凶のひとつとされています。そのため戦後の日本では「タブー」視され黙殺されているような状態です。読み進めていくと、確かに取り扱いに注意を払わないといけない「アブない」概念ではあります。しかし、なぜに支持されたのか、なぜにタブー視されるのかを知る手段は残される必要があると思います。ちょうど、詐欺のやり口に対抗するために詐欺の手口を学ぶというようなものでしょう。今もなお「地政学」に基づく戦略を持つ国家がある限り、その意図を理解できないまま争いに巻き込まれるよりは、予防手段のひとつとして掴んでおく事が大事だと思います。

 当時の為政者や軍人たちは「地政学」を原子力と同じく使い方を誤ったかと考えられます。そうでなければ、何が正気で何が狂気であるか判断ができないほど、さらに愚かだったことになると思います。

(倉前盛通,角川文庫)

2024/03/11

ジョイ・ラック・クラブ

おんなの生きざま半荘

麻雀は4人いないと始まらない。やはり「賭ける」ものがあったほうがいい。運を天に任せず自分の力に頼るのみ…

(この本を読むために麻雀の知識は一切要りません、念のため)

中国からアメリカに渡った4人の女性たち。そして彼女たちの娘が4人。ひとりにひとつずつのショートストーリーでちょうど半荘という感じです。「喜福倶楽部」の女たちの、運命に翻弄されながらも強く生きようとする女の生き様が描かれる一方で、母娘の絆の深さというものについても考えさせてくれる内容になっています。

私は男だけの三人兄弟として育ったので、母と娘の関係についてはわかりません。ですが、周囲の母娘を見回してみると、親子ではあっても時には友人のようであったり、娘に子供が生まれれば「母親同士」というような連帯意識をもったりするようなところが、父と子の関係とは全く異なるのだと思います。そして、わからないながらも、その見えない母娘の結びつきの強さはいつの時代にも受け継がれていくのだ、と読み取りました。

ちなみに映画「ジョイ・ラック・クラブ」も、登場人物が入れ替わっていくところは、本と同じです…麻雀牌ほどの目まぐるしさではないですが。

(エィミ・タン,角川文庫)

2024/03/10

アーサー王宮廷のヤンキー

うちあたいのクレメンス氏

「トム・ソーヤーの冒険」「ハックルベリィ・フィンの冒険」などで有名な作者ではありますが、「王子と乞食」やこの本のような「王制風刺もの」もあります。なぜマーク・トウェインが王制もの(それもイギリス)を書いているのか、読み進めていくうちになんとなく感じたことがありました。

──マーク・トウェインは王制もので奴隷制を風刺しているのではないか?

ときは南北戦争まであと何年ぐらいといったアメリカ「南部」。広大な土地と奴隷による高収益、まるで「貴族」のような暮らしを送る白人たち。英国という「王制」から独立して何年というが、やっていることはアメリカ独立精神とは180度違う封建制度のような社会ではないか…と。

マーク・トウェインは奴隷制の批判をしたり、奴隷解放運動に積極的だったという逸話はなかったらしいのですが、生まれ育った土地柄などであからさまな言動を控えていたのだと思います。それでも、矛盾した世間に対して王制風刺といった形で批判せずにいられなかったのではないでしょうか。マーク・トウェインことクレメンス氏の「うちあたい」している様子が見えるような気がします。この本をおかしく読み進めながら19世紀のアメリカに重ね合わせてみると、なんとも重たい読後感となってしまいました…

※「うちあたい」とは沖縄の方言で「非難していることに自分も含まれていることに気づいた状態」のことを言います。「自分のことを棚にあげて人を叱りながらも、自分の良心にも感じるチクチクした痛み」という例え方をしている人もいます。

(マーク・トウェイン,創元推理文庫)

2024/03/07

御家人斬九郎

葵のご紋は持ってるけれど

名実ともにハリウッド俳優となった渡辺謙氏のTVドラマを見てもいいのですが、原作も一読の価値があります。江戸時代の「御家人」とは幕府から俸禄の支給がありながらも将軍に会うこともない、食べていくのもギリギリな最下層の武士です。主人公「斬九郎」はアルバイトすなわち「かたてわざ」をしなければ美食家の母を満足させられないとか、無頼な輩のようで義理人情に厚いとか、御家人といえども将軍の遠戚なので家紋は「葵の御紋」だけれども…という数々の細かい設定がなんとも味があります。そして他の登場人物もなかなか個性的です。TVドラマもそういう雰囲気を出そうとして努力しているのもわかります。(まあ、キャストのプライベートな関係は捨て置きましょう…)

 時代劇は筋書きにおいて、ある種のリピートがかかっている感も否めないのですが、「わかりやすい」というのが一番の長所です。どこから、誰から、いつからでも物語を始められます。ご都合な展開で当たり前、現代と違って込み入った事情やハイテクも不要。郷愁を感じさせつつも異世界といっていい江戸時代。根強いファンがいるのも当然です。

「眠狂四郎」などで知られる作者の最後の作品で、続巻がないのが非常に惜しまれます。

(柴田錬三郎,新潮文庫)


2024/03/03

プリンセス・ブライド

面白さだけは伝えたい

  深夜TVで放送されていた映画を何とはなしに見てたら、意外と面白かったりしたことがありませんでしたか? なんだか得をしたようなつもりになって、後で友人たちに紹介したり原作本やビデオがないか、本屋やビデオショップを探しまわったり配信されてないか検索したりしませんでした?

 正直に言って「プリンセス・ブライドの原作」は面白くないそうです。でも、この本は魅力的な登場人物や背景世界、シャレた会話、スレスレだけど笑えるギャグとエスプリに富んだ語り口がたまらない。お嬢様なタイトル(失礼)と違い起伏に富んだお話なのでページを繰る手ももどかしいほどです。

 こんな本が知られていないとはもったいない! ぜひとも誰かに伝えたい、この面白さを!

 映画「プリンセス・ブライド・ストーリー」はとてもおすすめです。名前負けしたのか(失礼)、興行成績はいまひとつだったのですが、この本に負けず劣らず良い出来です。DVD出たら絶対買います。故アンドレ・ザ・ジャイアントが悪役でなしに見られるという珍しい映画でもあります。

 後日、友人から苦情が来てしまいます。「あの映画はどうしようもないC級映画だった! 夜中にTVでやってたし、おまえ寝ボケててちゃんと見てなかったろう!」…そうか。TV放映されるときは一部カットされてるし、うとうとしてたから、細かいところなんて、覚えてなかったかもなぁ…

 ※ 作者ゴールドマンはいたずら好きな性格らしいので、私もちょっとマネた形で紹介してます

(ウィリアム・ゴールドマン,ハヤカワFT文庫)

2024/03/01

へびつかい座ホットライン

リロはなぜ殺される

 突如地球は正体不明の「インベーダー」に占領され、人類は太陽系の各惑星に脱出を余儀なくされた。人類の未来は絶望と思われたとき、謎のメッセージが送られてきた。メッセージの大半は解読不能だが、垣間見える有用な情報が人類をかろうじて持ちこたえさせている。そのメッセージはへびつかい座方向から受信できること以外、何もわかっていない…

 そんな「これからどうなるんだ」的な状況の中で、主人公はあがき続けます。へびつかい座ホットラインの謎を追いつつも、主人公を利用せんとする勢力に抵抗し続けます。何度も死を迎え、クローンとして生き返ることを余儀なくされても、決してやめようとはしません。もはやオリジナルなんて関係ない、人類さえもオリジナルではなくなっているのだから。ただ自分の境遇から脱したいだけなのに。

 作者はもとヒッピーだったとかで、ヒッピー全盛期のドラッグやフリーセックスといったサブカルチャーの雰囲気を投影しているらしく、多様化する価値観、性別や種族までも境界線が薄れていく未来絵巻がくりひろげられています。21世紀を迎え、過去のSF作品にぽつぽつと「時代遅れな未来」が見受けられる中、この作品は独特の雰囲気を持っているために今なおオールタイム・ベストに居座る怪作です。

 へびつかい座ホットラインの謎が解けても、リロは死に、生き続けることでしょう…
この物語が読まれ続ける限り。

(ジョン・ヴァーリィ,ハヤカワSF文庫)

2024/02/29

深夜特急

さよならニッポン

 若者に半ば強制的に試練を与え、それを乗り越えていく様子を中継するTV番組が好評を博している昨今です。でも、試練を試練とも思わない、他人からは「自分から苦労してバカじゃないの」といわれてしまうようなことをしている人は少なくないと思います。

「デリーからロンドンまで走るという幻のバス」に乗るために「私」は旅支度をしたのでした。別にきっちりとした計画はなく、漠然と香港からデリー、そしてロンドンまでバスを乗り継いでいくというものです。当時「私」には仕事もあり、べつだん不自由も感じていなかったというのに、なんでまたそんなことをしたのか…きっと、わからなかったからだと思います。ネタバレな明日よりも、本当にどうなるかわからない明日のほうがよりよいものだと感じたのかもしれません。

 旅先でいったい何に出会うか予想がつきませんし、いつトラブルがおこるかわかりません。でも、今まで食べたことのない珍味に舌鼓をうち、ギャンブルに熱くなるもよし、何もせずただ通りを歩き回るだけでもよし。色々な人と交流し、時には一人で考え込む。私はそんな旅の記録から「旅立つことで旅の目的は達成されているのでは」と感じました。ロンドンに到着する前に「私」はすでに「到着」してしまったのではないでしょうか。タイトルの「深夜特急」に含まれているもうひとつの意味(冒頭で述べられています)が、それを暗示しているように思われます。

 なぜ旅をするか、旅をするとどうなるかは人によって様々な考え方があるかと思います。この本は単なる旅行記と呼んでもいいし、旅のガイドブックになるかもしれません。要は各々のやり方で「さよならニッポン」すればいいのではないでしょうか。

(沢木耕太郎、新潮文庫)

2024/02/28

大脱走

実話の持つ迫力

「映画を見たからいいや」なんて言わないでください。原作には映画化できなかった色々なエピソードがふんだんに盛り込まれ、映画を見た人でも充分に満足できるはずです。もちろん映画の方も、原作の雰囲気を失わずにとてもうまくエッセンスを抽出している名作ですので有料配信だとしても観る価値はあります。

 時は第2次大戦後期、ここドイツ空軍の捕虜収容所に捕虜たちが集められます。彼らは捕虜の自覚なんてさらさらなく、退屈な収容所暮らしの中に刺激を求めて「脱走」を試みるのです。方法は色々ありますが、やはり王道はトンネルです。綿密に計画を練り、慎重に準備を重ね、巧妙に処理していく様子がことこまかに描かれています。ないものは作り、どうしても作れないものは盗み、知らないことは調べ、どうしても知らないことは脱走してまで調べてくる。何もできない者はいなく、誰もが何かをすることができる。「捕虜の任務は、出来る限り脱走して敵国に手を焼かせ、兵力や士気に影響を与えることだ」という名目のもとに、捕虜たちはスポーツでも楽しむように脱走の準備を進めていきます。

 原作のもうひとつの特徴は、終戦時や戦後についてもふれていることです。ドイツの敗戦が濃くなり、ソビエト軍が迫ってくるため収容所は閉鎖されます。捕虜たちは他の収容所を移されながらも必死に生き延びようとします。その際にも友軍の方へ常に「脱走」を試みるのです。また、大量の脱走者が出たことに対し、ドイツ軍は脱走者を銃殺するという「見せしめ」のような報復に出ました。その命令は誰が出し、誰が執行したかを追求するところまで原作には書かれています。

 まさに「実話」ならではの迫力が伝わってくる本です。多少は重たく感じられる場合は、映画を見て息を抜きましょう。

(ポール・ブリックヒル、ハヤカワNV文庫)

2024/02/27

ディープ・ブルー

賢きもの、なんじはイルカ

 イルカたちが持っている、その特殊能力は世界のあちこちで研究されています。そして、古来より人間と不思議な関わりを持ってきました。イルカに助けられた遭難者、イルカと協力して漁を行う村、精神障害者をイルカに接触させて治療活動を行う、などなど…

 かつて、イルカと接触を持った3人の男女。彼らはふとしたことから、イルカたちについて熱心に考えるようになっていきます。とある一匹のイルカも、ふとしたことで人間たちと関わるようになっていくのです。運命が彼らを出会わせるとき、人間とイルカが再び結びつくきっかけとなる事件が起こるのです…

 この物語のイルカたちは親しみやすく、生き生きと描かれていますが、多少人間みたいになりすぎている気がします(まあ、物語を書いたのは人間ですから)。イルカの大好きな私としては、元気で頭のいい動物の代表格としてイルカが活躍するので気に入っています。この物語の元ネタになったのは、同じ作者の前作「リプレイ」中に出てくる幻の大作映画「スター・シー(星の海)」です。とても素晴らしい物語だったということになっているので、作者自身も書いてみたくなったのかもしれませんね(ちなみに「リプレイ」もとても面白い作品です)。

 イルカのきゅいきゅい鳴く声を聞きたくなる、そんな作品です。

(ケン・グリムウッド、角川文庫)

2024/02/26

ニューロマンサー

電脳空間と仮想現実、サイバーパンクの幕開け

 20世紀末、次世紀の立役者としてコンピュータ及びそのネットワークが注目され始めた1980年代にこの物語は発表されました。全世界を覆うネットワーク、コンピュータに人間の感覚を直接入力するサイバーデッキ、実用化された人工知能、兵器としてのコンピュータウィルス…などなど、近未来のスパイス満載のこの物語は「サイバーパンク」なる作風を最初に確立しました。人間の肉体と感覚が分離できた時、「知能」の定義や「生命」の境界線が曖昧になっていき、ハイテクとコピー文化のもたらす混沌とした世界で生き生きとしているのは、最先端(エッジ)すれすれのきな臭い仕事を請け負うハッカーたちなのです。

 およそ時代遅れと言われかねないピカレスク(悪漢活劇)の手法がかえって登場人物の個性を引き立てています。主人公をはじめ、誰もがすねに傷ある、たたけばホコリの出そうな者ばかり。アナーキーな彼らが使う粋なスラングも、今は亡き黒丸尚氏のポップな翻訳でカッコ良く響きます。また、バーチャル・リアリティ技術が娯楽として普及していたり、ドラッグで感覚を「拡張」したりと、身体に悪そうな小道具も雰囲気を盛り上げます。

 お話はなんと日本から始まります。チバのニンセイ(いったいどこなんでしょ。アキハバラじゃないの?)で、廃人同様にうつろな毎日を過ごす元ハッカーの主人公に、依頼が舞い込むところから始まります。前の仕事で強がりすぎて、電脳空間にアクセスする能力を取り上げられてしまった彼に、また仕事ができるようにしてやるというのです。もちろんその仕事には危険な匂いがします。でも主人公はまた電脳空間にアクセスできるようになるならと、引き受けるのですが…

 結構この本は読みこなすのが難しいです。斜め読みでダーティな近未来の感覚を味わうだけでもいいかもしれません。「サイバーパンク」と銘打つ作品のほとんどに影響を与えた作品ですから、この手の作品を好きなら、ぜひ触れてほしい本です。ちなみに映画「JM」も同じギブスン氏の作品ですから、「JM」を見た人なら短編集「クローム襲撃(同じくハヤカワ文庫)」収録の「記憶屋ジョニィ」から入るのもいいでしょう。私個人としては士郎正宗氏の「攻殻機動隊」や映画「マトリックス」あたりを入門編としてお勧めします。

(ウィリアム・ギブスン, ハヤカワSF文庫)

2024/02/25

デッドゾーン

知りすぎてしまうあまり、わからないこと

 可能な限り、誰もが自分の未来を知りたがっています。でも、自分の運命を知ることが必ずしも良いことなのでしょうか…「予知能力」をテーマにした物語はたくさんあります。その中でもこの作品は異色で、なるほど鬼才スティーブン・キングらしい出来映えです。

 交通事故で数年もの間昏睡状態だった主人公が目覚めた時、今までにない2つの現象が起こったのです。1つは、肌が触れた人間の未来を見通す力で、もう1つは何らかの条件でその未来が感知できないというものです。きっと誰もがそうであるように、主人公はその能力を控えめにしていきます。どんなに隠し通そうとしても、どうしてもそれは多くの人に知られることになるからです。

 必ずしも全ての人が持たない能力であればこそ、有効に活用されるべきかもしれませんが、主人公にとってはただ、失われた日々を取り戻し、静かな生活を送りたいだけなのです。しかし、マスコミや心ない人々が主人公を揺さぶります。たとえ連続殺人犯を見つけだすとか、悲惨な事故を未然に防いだりというように予知能力でもって人々に貢献できることをしても、やはり主人公に心の安定は来ないのです。キング氏の作品で、超能力を扱った作品はこういった点をうまく表現しています。

 そんなある日、主人公は一人の男と握手をします。その男が権力を握るとき、どんなに恐ろしいことが起きるのかを知った主人公はとある決断をします。でも、主人公の取った行動が如何なる結果になるかだけは「デッドゾーン」にあり、知ることができないのです…

 この作品は映画化されています。読後に見比べてみてはいかがでしょうか。

(スティーブン・キング, 新潮文庫)

2024/02/24

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

 感情と共感の曖昧なニンゲンたち

 映画「ブレードランナー」の原作としても知られるこの作品ですが、映画では描ききれなかった部分が数多く見受けられ、設定もかなり違います。映画公開当時、中学生だった私はミーハー気分で見に行き、重いテーマにぐったりとなった思い出があります。それでも、もっと良く知ろうと原作を手に入れ、読み…さらにぐったりとなりました。中学生の私は、まだ「人間らしさ」についても考えたこともなかったのですから、少し難しすぎたのでしょう。

「人間らしさ」と「人間そのもの」の違いをどこで見分けようとしているか、「人間」と「人間でない」の境界線はいったい何か…そして、自分自身ははたして「人間」なのか? このようなジレンマを作者はうまく表現しています。今まで現実だと信じて疑わなかったことが嘘だったり、決まりきったルールが徐々に崩れていくような作風がさらに雰囲気を盛り上げています。

 逃亡したアンドロイドたちを狩る、いわば賞金稼ぎである主人公は、とある女性型アンドロイドに好意を抱いていることに気づきます。そして、「人間らしく生きたい」と願うアンドロイドたちを「処理」していることに戸惑いを覚えはじめるのです。皮肉にも、アンドロイドと人間を見分ける判別法は「感情移入」を利用したものでした。主人公はアンドロイドへの感情移入度を測るため、アンドロイド判別検査を自分に行うのでした…

 この本を読むのは、ちょっと骨が折れるかもしれません。読む前に、「ブレードランナー(それもディレクターズカット版)」を見ておくことをすすめます。原作のあらすじとは全然違うのですが雰囲気をつかむ程度で構いません。

 この物語のキーワードは「感情移入」だと思います。この物語にどれだけ「感情移入」できるかが、読み進めるカギとなるでしょう。

(P・K・ディック、ハヤカワSF文庫)

Amazonで注文できます

2024/02/23

パパラギ

 もはやエデンには帰れないのか

 20世紀初頭、ひとりの南太平洋の島国の首長がヨーロッパ諸国を見物しました。「現代文明」は、彼にとっては非常に驚くものばかりでした。そして帰国した彼は、故郷の人々にそれを伝えて回りました。肌の白い人々、パパラギたちの生き様はなんと矛盾に満ちているかを。

 文明の利器に囲まれ、色々な刺激に満ちているかのように見える今日の我々ですが、なんだか大事なことを忘れているような、物足りない気がしていませんか? 我々は、確かに豊かな暮らしをしているかのように思えますが、きっと何かを犠牲にしているはずです。この本で語りかけてくる首長ツイアビの言葉をもって辺りを見回せば、現代文明はやるせないほどに色あせています。文明とは、文化とは? 価値観とは、感性とは? ツイアビは時には笑い出したくなるくらいに我々をおもしろおかしく観察しているかと思えば、現代人の考え方があまりにも不自然すぎるということを痛烈に批判しているのです。

 今さらエデンに戻れない現代人には、耳に痛い言葉もあります。また、納得いかない点も見受けられるでしょう。でも、きっと今までに聞いたことのない考え方に出会えるだろうと思います。
 でも…実は、ツイアビは実在の人物ではなくこの本はニセモノと呼ばれているのですが、この本の持つ問いかけそのものは、本物と言えないでしょうか。

(エーリッヒ・ショイルマン、立風書房)

AmazonでSB文庫版が注文できます

2024/02/22

「ファウンデーション」シリーズ

 壮大なのはアシモフ自身だった

「銀河帝国」という響きに、何を連想しますか? そして、数百万の星を一万数千年に渡り統べていた強力な帝国が崩壊するとき、何が起こるのかを想像できますか?

 心理歴史学者のハリ・セルダンだけが、その悲惨さを推量することができました。栄華を誇る銀河帝国は近い将来滅びの道をたどり、新たな第2帝国が成立するまで3万年の暗黒時代が続く…それは、野蛮で無慈悲であり、多くの人々が犠牲になるのだ、と。

 彼の提唱する心理歴史学とは、高度な数学的計算によって社会の動きを見極めようという学問です。そして、銀河帝国の技術や文化を遺し第2銀河帝国の布石とするため「ファウンデーション」が設立され、表向きは「銀河帝国百科事典編纂のための組織」としました。これによって3万年の暗黒時代を30分の1である千年に短縮しようとしたのです。

 果たしてセルダンの夢は叶うのか、ファウンデーションの前途はいかに…

第1部「ファウンデーション」
第2部「ファウンデーション対帝国」
第3部「第2ファウンデーション」
第4部「ファウンデーションの彼方に」
第5部「ファウンデーションと地球」
第6部「ファウンデーションへの序曲」
第7部「ファウンデーションの誕生」

 第1部から第3部までが長い間「銀河帝国興亡史3部作」として知られていたのですが、およそ30年ぶりに第4部以降が書かれました。それも、ただの続編としてではなく旧来の「ロボットシリーズ」との融合を図った構成となったのです(第4部・第5部は「ロボット」シリーズを読んでいないと辛いかもしれませんね)。また、第6部・第7部は時代をさかのぼってファウンデーションの創設者ハリ・セルダンを描いた作品となっています。

 どれから読み始めても良いのですが、やはり発表順に読んでいった方がいいと思います。特に、第3部の後は「鋼鉄都市」に始まるロボットシリーズを読んでから第4部以降を読んだ方がベターです。

 私はやはり第7部「ファウンデーションの誕生」が好きです。ひとりの人間としてできるだけのことをやろうと最善を尽くすセルダンの姿が感動を与えてくれます。彼のひたむきな努力はゆっくりと結実していき、壮大なファウンデーション計画を成功に導いていくのです。また、セルダンの後ろ姿にアシモフ自身が見え隠れするようなところがとても興味深いものがあります。

 そして、アシモフが構築した世界を引き継いだ「新ファウンデーション」三部作が、有名なSF作家達によって創作されました。まるでこのこと自体がセルダンの残したファウンデーションのようではありませんか。アシモフはそれを狙っていたかどうかはわかりませんが、誰かが意志を継いでいくことを見据えていたならばアシモフ自身が壮大であるかもと言えるのではないでしょうか。

(アイザック・アシモフ、ハヤカワSF文庫)

Amazonで入手できるのは,,,4上,4下,5上,5下,6上,6下,7上,7下

2024/02/21

さらば国分寺書店のオババ

 ゴーイン社会に猿人殺法炸裂の疾風怒濤的青春記

 普段の日常生活の中でたまに、勝手なルールを強引に押しつけられているような気がしたことはないでしょうか。または、世の中が理不尽なことだらけに感じることはないでしょうか。椎名氏はそんな理解に苦しむ訳ワカンナイことを放ったらかしにはせず「なぜだ?!」と正面右四つがっぷりと向き合うのです。

 椎名氏は常日頃から、鉄道関係者や警察やバスの運転手などと、融通のきかない「制服関係者」が気に入らず、日夜水面下で「眼下の敵と心理学的駆け引き風の」激闘を繰り広げていました。そこへ突如アカマル急上昇で椎名氏に立ちはだかったのは古書店「国分寺書店」のオババなのでした。オババの態度にフンガイした椎名氏はというと…というようにエッセイのはずが物語のように展開していきます。

 私が中学生の頃、このエッセイがラジオドラマになって放送されていました。演じるは伊部雅刀、故佐々木つとむで(すいませんオババ役は忘れてしまいました)、BGMはなんとYMOという、ほぼスネークマンショー的な構成だったのです。このラジオドラマは好評だったらしく、以降のエッセイ「気分はだぼだぼソース」「かつをぶしの時代なのだ」も放送されていました。

 今ではアウトドア作家というような雰囲気の椎名誠氏ですが、かつてはこういう若さの勢い余って東京スポ見出し的な威勢のいい作品を書いていたのです。今では「怪しい探検隊」シリーズぐらいにしかその勢いがうかがえないのがちょっと残念です。

(椎名誠,新潮文庫)

Amazonでは古書のみが注文可能です

2024/02/20

墨攻

 古代中国のシステムエンジニアたち

 古代中国に実在した思想集団「墨家」。その特異な教義のもとに集まった人材は春秋戦国の世において珍重されることとなったといいます。質実剛健を旨とし、利他的で自分を犠牲にすることもいとわないという性格はキリスト教と比較されたりしました。

 さらに、墨家は技能習熟に励み惜しげもなくそれを教えるといった、まるで技術者の鑑のような人たちだったのです。当時は戦乱の時代だったので、戦闘技術、それも防御戦においてとても優れた戦術を編み出したのでした。「墨守」という言葉が今でもあるほどですから、墨家の守る城を攻め落とすのは容易ではなかったのでしょう。

 これは、ある墨士が赴いた城での激しい攻防戦を通して、その凄まじいまでの生き様を描いた物語です。昨日までは敵の襲来におびえていた一般市民でさえ、彼の指導のもとにだんだんと一個の兵隊に変わっていき、士気もあがっていきます。読み進めて行くにつれ、ふと自分の職業に通じるものを感じていました。コンピュータによるシステム開発というものも、いろいろな人が集まり、有用な機能を持ち効果的な運用ができるよう目標に向かって地道で忍耐強く努力を積み重ねることによって成立します。システムエンジニア見習いとして働いている私にとってはとても身につまされるほどに感じられてなりませんでした。

 私も彼のように役立つ技術者になりたい… とは思ったのですが、とても彼ほどに動き回れそうにはありません(あっという間に過労で病院行き)。でも、せめて某OSの関係者にはこれぐらいは頑張ってほしいですね。(^_^;) いや、シャレでなく。

(酒見賢一,新潮文庫)

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