2023/11/18

愛はさだめ、さだめは死

 胸の痛みは甘く切なく、そしてほろ苦い

 「女性のヘミングウェイ」とも評される作者の短編集です。出版当時は編集者の前にも姿を現さない、謎の作家でした。その経歴はこれまた波瀾万丈で… そういうのは本の後ろにある解説に任せて、ここではその特異な数々の物語についてお話ししましょう。

 彼女の作品には、交流は出来ても決して同じではないといった「異質なもの」への接近をはかる、というような傾向が強く、その中には「男性」も含まれているのです。決して相容れぬもの、強くともはかない女性とたくましくとも哀しい男性、知性の中に潜む本能におびえ、かろうじて理性を保ち続けることなどなど、いささか重くなりがちなテーマをSFという形で臆面もなく表現しています。本を読みながら現実に戻ろうとしても、どこかで声がするような…「どんなにあがいても遺伝子の叫びに逆らうことはできない」と。

 まるでカマキリの雄が雌に食べられる覚悟について理解できたような、変な感覚です。

 私がお気に入りなのが「エイン博士の最後の飛行」「男たちの知らない女」「断層」です。「エイン博士の最後の飛行」は、物語の最後の瞬間の時点から語られ、何も知らないうちに読者は決して逃れられない深淵に引きずり込まれてしまう表現方法に驚き、こんなストーリーテリングもできるんだ、と感心しました。「男たちの知らない女」は作者最大の問題作といわれ、フェミニズム運動の盛んなアメリカではショッキングな受け止められかたをされたようです。女性の持つ残酷なまでの潜在力、現実的であるが故に衝撃的な結末。恋愛について当たりクジに恵まれない私には、身につまされる内容でした。「断層」は、普通のSFふうに展開しますが、「決して届かないのに、いつまでも手を伸ばそうとする」様子の表現が、私の心の奥底の琴線に触れてしまった(何なのかはちょっと言えません)のですが、珍しくハッピーエンドなのがほっとさせてくれました。

 この短編集はちょっと難しいかもしれません。これから彼女の作品を読もうと思っている人には「たったひとつの冴えたやり方」を入門編としてお勧めします。

 彼女の作品について、いずれかの機会にページを割こうと思っています。彼女の作品にはまだ未訳のタイトルもあるようですし、全部の作品を紹介できないかもしれないですけれど。
(ジェイムズ・ティプトリーJr,ハヤカワSF文庫)

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