2023/11/10

猫のゆりかご

 猫はいない、そう思いこんでいるだけ

 奇才カート・ヴォネガットJr.は独特の作風で、誰も真似できないし、真似しようとも思わないと言われていますが、特にこの作品は物語の最後が全く見通しがつかない迷作です。「猫のゆりかご」とはいわゆるあやとりのことで、いないはずの猫をあやとりの中に見るように、この世界もまたあってないようなものなのだ、というクールな視点で物語は展開していきます。

 主人公はとある本を執筆中で、その取材対象者にインタビューを試みようとします。ところが、その取材対象者たちは変な人ばかりで、肝心な情報を持っている人は小さな南島の独立国にいるのです。主人公はそのうちに「ボコノン教」という変てこな宗教に出会います。その教義や思想がこれまた変てこで、私も一時期感化されてしまったほどです。他にも、ブラックユーモアに満ちた様々な出来事、妙な楽屋オチ、作者の他作品から登場人物が顔を出すだの、持ち寄りパーティで集まった多種多様のオードブルさながらの演出がさらに物語の混迷を深めさせています。読む人を選んでしまう本の部類に入ると思いますが、そのストーリーテリングや独特の雰囲気はクセになると手離せなくなってしまうでしょう。

 作者カート・ヴォネガットJr.はあまりにもシビアで数奇に満ちた人生を送ってきた人で、ほのぼとした雰囲気でいながら残酷でシビアな物語を書けるのも、やはりそうした過去の引っ掻き傷のせいかもしれません。彼の著作は他にもありますが、どれも妙に現実的かつ「こんな奴いねーよ」という感覚が混ざり合っているものが多いです。

 物語の結末は救われない状況となります。でも、妙なユーモアを忘れない作者はちゃんと最後まで皮肉を忘れません。ラストシーンは、私はとても気に入ってます。確かに、真似したくないけど真似る訳にいかない。ただの一読者で良かった、と。
(カート・ヴォネガットJr,ハヤカワSF文庫)
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