2023/10/22

サターン・デッドヒート

人間の「可能性」の照れくささとすがすがしさ

 主人公クリアスは、スペースコロニー(!)内の大学で考古学を教えるしがない考古学者です。「どこの誰のものとも判らない書き置きを解読する」エキスパートとして、土星で発見された謎の金属板の解読を引き受けるところから物語は始まります。なんだか舞台を宇宙に移した「レイダース」じゃないか、と思われる人も多いかもしれませんが、その通りです。

 主人公はヒーローなんて柄じゃない、といささか引っ込み思案なキャラクターなのですが、だんだんと「味のある」キャラクターになってゆくのです。われわれ読者が読み進めていくにつれ、主人公もまた成長してゆくしかけになっているようです。

 例えば、宇宙旅行について、主人公はてんで素人な質問をして相手をあきれ返らせているのですが、下手に解説的な説明文をはさんで読者がしらけてしまうよりはいいと思いますし、主人公クリアスのとぼけたところが親近感を覚えます。うだつのあがらないはずの彼が落ち着いた表情を見せてきたところで、金属板の謎が解明されていきます。これは、明らかに異星人の手によるもので、拾い上げられるためにわざと置かれていたようなのです。

 物語の後半は、コロニー側と地球側とで土星の秘密を先に手に入れようと熾烈なデッドヒートが繰り広げられていき、主人公も渦中へと巻き込まれていきます。どちらが先でもおかしくない、しかし土星に隠された秘密とはいったい何か? -それが知りたい!

自然とページをめくる手も早くなっていると思います。

 時には照れくさい場面もありますが、すがすがしい後味のある読み応えです。もし、気に入ったなら続編「ヘキシーの星のライオン」もどうぞ。

(グラント・キャリン,ハヤカワSF文庫)
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