2024/01/10

猫弾きのオルオラネ

 切ないならば、いっそ心を解き放て

 学生時代の終わり、私が非常に辛い気持ちでいた時…想いを寄せながらも、それが決して届かなかった時のことです。すっかり落ち込んでいた私に、友人からこの本をすすめられました。この本は連作の短編集で、共通しているのはオルオラネ爺さんが出てくるということだけ。「居る、居らね」とはなんとも人を食ったネーミングです。そして一方で、精神的にダメージを受けた人がいる。悲しさ、空しさ、やるせなさ…切なくてやり切れないとしても、その気持ちは強い力を秘めている。だから、それを閉じこめたままにしないで、心を開いて解き放ってしまおうという筋書きです。

 他にも、不思議なものが出てきます。「夢雪蝶」「天竺風鈴草」「こころほし てんとう虫」などなど、詳しくは書きませんがどれもあなたを不思議な気持ちにさせると思います。虫とか花とか他愛もなさそうなものばかりですが、その中にも立派な「力」があるとでもいいましょうか。日頃は当たり前すぎて気にも留めないようなことにも気づく瞬間があり、その瞬間のひとつひとつを大切にできないものか…

 物語の中で、オルオラネ爺さんは猫を弾きます。爺さんが猫の身体を撫で回すと、猫たちが唄い始めます。その声は、染み込むように心の中に響いていくというのです。登場人物の飛び出ている感情を穏やかに引っ込めていく、というその唄を聞いてみたく思いますが、あまり聞いてしまう境遇にもなりたくないですね。(^^;)

(夢枕獏,ハヤカワJA文庫)

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