平安時代の奇本、現代に通ず
古典の参考書などに、まれにこの物語について言及されています。女として育てられた若君と、男として育てられた姫。二人のこの兄妹はそれぞれ宮廷に出入りするようになるが、その秘密はいつばれるかと両親は気が気でならない。このふたりの運命やいかに…
「先天的性障害」という言葉があります。身体的な性別と精神的な性が矛盾している、という意味だそうです。ゲイとかニューハーフだとか性転換者といった、性別の認識が変わりつつある現代ではなく、平安時代の貴族社会が舞台というのがとても興味深いと思います。それでも、根底にあるのは人間の心です。昔も今も、誰もが人間関係に悩んでいるということです。「出家してしまいたい(いっそこの状況から逃避したい)、でもそれはできない」と考えあぐねるのです。
読んでいくうちに感じたのは、子を想う親の気持ちがとても強調されているということです。二人の兄妹をめぐる物語の中でたびたび、両親の胸中おだやかならざる場面が描かれているのです。宮中の一大スキャンダルともなりかねない我が子のことを憂うこともなく、またそれによって自分の地位を案じるわけでもなく、ひたすら子を想う親の気持ちの強さは変わらないのだなと思います。
現代人から見ればちょっとヘンな平安時代の価値観に気が散らなければ、案外すんなりと読み進めていけるでしょう。平安時代の用語も学生時代に古典の教科書に出ていたのを思い出せればそこそこ充分です。また、男女関係についての描写はそう露骨ではないものの、満員電車の人混みの中では読まない方が賢明です(経験者は語る)。
(作者不明,中村真一郎訳,ちくま文庫)
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